- 胆道系
- 胆石
- 排泄性胆道造影
- 原著論文
- 1924 初の胆嚢造影
- 1925 経口胆嚢造影
- 1940 Biliselectan(非フェノールフタレイン系経口造影剤)
- 1955 Biligrafin(非フェノールフタレイン系経静脈性造影剤)
- 関連文献
- 1961 発明者が語る胆嚢造影の歴史
- 直接胆道造影
- ・経皮経肝胆管造影(PTC)
- ・内視鏡的逆行性膵胆道造影(ERCP)
- 原著論文
- 1974 PTC
- 1970 ERCP
- MRCP
- 原著論文
- 1991 MRCP
胆道系
胆石
X線発見以前,胆石の診断は,いわゆるCharcotの三徴など典型的な臨床所見が見られない限り容易ではなかった.最も確実な診断は,便を篩にかけて排石を確認することであった[1].胆石は原始的なX線装置でも観察される機会が比較的多かったことから,腎結石とともに初期からX線診断の対象として研究された.X線発見が報じられた僅か1ヵ月後の1896年2月15日には早くも,摘出胆石のX線像が報告されている[2].1897年には,Gilbertらがやはり摘出胆石について,組成によってX線濃度がX線濃度が異なること,コレステロール結石は見えないことなどを報告している[3].1898年,Buxbaumが初めて臨床例で胆石のX線像を報告した[4].しかし描出は難しく,Beckは撮影方法を工夫して腹臥位,斜位での撮影を奨めているが,それでも術前18例中2例しか描出できなかった[5].
排泄性胆道造影
1909年,アメリカの化学者 John J. Abel,L. G. Rowntreeは,下剤のフタレイン系化合物が選択的に胆汁中に排泄されることを見いだした.これはその後BSP試験のような肝機能検査に応用された[6].また1921年には,Rous, McMasterらが,胆嚢が水分を吸収して胆汁を8~10倍に濃縮する作用をもつことを発見した[7].これらの知見をもとに,アメリカの外科医GrahamとColeは1924年,四臭化フェノールフタレイン(tetrabromophenolphthalein)の静脈内投与による胆嚢造影に成功した[→原著論文].1925年,アメリカのWhitakerらは,フタレイン系造影剤の経静脈性投与72時間後に,胆嚢が腸肝循環によって再描出される現象にヒントを得て,四ヨウ化フェノールフタレイン(tetraiodophenolphthalein) (図1)による経口造影に初めて成功した[→原著論文][→関連文献].
しかし,フタレイン系造影剤は嘔気,下痢などの副作用が多く,また稀であったが出血性膵炎による死亡例も報告された.1940年,Dohrnは副作用の少ない経口造影剤 Biliselectan (iodoalphionic acid)を開発した[→原著論文].1951年にHoppeらが開発したTelepaque (iopanoic acid)はさらに副作用が少なく,その後の経口胆嚢造影剤の基本となった.1953年,Langebeckerが開発した経静脈性造影剤 Biligrafin (iodipamide)[8][→原著論文]は造影能に優れその後長く使用された.1976年に登場したBiliscopinはその構造の一部を改変したもので,現在もCT胆道造影に使用されている(図1).
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原著論文
【要旨】肝機能検査薬として四塩化フェノールフタレインを使用した経験上,その大部分が胆汁中に排泄されることからこれを胆道造影剤として使用することを試み,動物実験を経て臨床例で初めて胆嚢造影に成功した.四塩化フェノールフタレインは造影効果が弱く,ヨウ化物は造影効果は良好だが副作用が強いことから,妥協案として四臭化フェノールフタレインを使用した.さらにナトリウム塩よりもカルシウム塩の方が造影効果が優れていることが判明した(図2).
この報告の3ヵ月後の第2報では,第1報で使用した四臭化フェノールフタレインのカルシウム塩は副作用が多いことからナトリウム塩に変え,症例を追加して報告するとともに,具体的な検査手順を明示している.朝食禁食として早朝に造影剤を静注,昼食も禁食として,3時間毎に重炭酸ナトリウムを服用し,4,8,24,32時間後にX線撮影を行なう.正常例では,4~8時間後から陰影が出現し,16~24時間でピーク濃度となり,48時間では消失する.病変のある胆嚢は,正常例のような濃い陰影がみられないか,あるいは造影されないとしている.
【解説】四臭化フェノールフタレインによる胆嚢造影の初報である.Grahamらは,この翌年に続報を発表しており[9],四臭化フェノールフタレインのナトリウム塩による造影55例中,13例に副作用(嘔気,嘔吐,各所の疼痛,血圧低下)が見られ,胆嚢炎の95%を正しく診断できたとしている.ただしこの診断は,第2報で述べられているように,胆嚢が良く見えれば正常,さもなければ異常という大ざっぱなものである.
初報に供覧されている2枚の臨床例のX線写真は,現在からみるといずれも不明瞭ではあるが,胆嚢をX線写真でとらえることができたことは,当時としては画期的なことであった.
【要旨】この前年,Grahamらがフェノールフタレイン製剤による経静脈性胆嚢造影を発表したが,手技が煩雑で副作用も強かった.著者らは,経静脈法において胆嚢が72時間後に再造影される事実から,経口投与を試みた.Grahamらは四臭化フェノールフタレインを使用したが,本報では四ヨウ化フェノールフタレインを使用している.そのまま錠剤にすると,やはり嘔気などの副作用があることから,サロール(サリチル酸フェニル)による二重コーティングを施した.
前日の午後8~9時に15分毎に4錠を服用し,翌日投与12時間後,15時間後にX線撮影を行なう.ここで食事をとらせ,1時間後に撮影する.12例の正常者,50例の患者にこれを試み,正常例の93%,患者の65%で胆嚢陰影が得られた(図3).副作用としては,嘔吐5例,下痢5例,軽度の嘔気7例が見られ,全般に経静脈法に比して軽度であった.
胆嚢が良好に造影され,食後に充分収縮すれば正常と考えられる.経口法は経静脈法に比して簡便,安全であることから,胆嚢疾患が疑われる場合は,まず経口法を施行し,疑問がある場合は経静脈法を追加することを推奨する.
【解説】経口胆嚢造影法の初報である.造影剤はGrahamらの経静脈法と同じくフェノールフタレイン製剤なのでやはり嘔気などの副作用があるが,経静脈法にくらべて簡便かつ副作用が少ないことが利点として挙げられている.経口胆嚢造影は,1940年に非フェノールフタレイン系のBiliselectan[→原著論文],1951年にTelepaque[10]が登場して副作用の問題はほぼ解決し,超音波検査,CTの登場により形態検査としての役割は失われたが,機能検査として1990年代まで行なわれた.
【要旨・解説】1924年にGraham,Coleが初めて胆嚢造影に成功したが,フェノールフタレイン系の造影剤は副作用が多く,使用しにくいものであった.本稿は,これに代わる新しい非フェノールフタレイン系造影剤 Biliselectanの初報である.初めの論文は,開発者であるドイツSchering社の化学者Max DohrnとW. Paul Diedrichによるもので,この二人は,尿路造影剤Uroselectan B,Urografinなどの開発にも携っている.短報なのであまり詳しいことは書かれていないが,化学的にはフェノールフタレインとは全く構造が異なるフェノールプロピオン酸系の物質でヨウ素原子が2個導入されており,経口造影剤として開発されている(図1).
2本目の論文は,連続する頁に掲載されたもので,Biliselectanを実際に用いた外科医のN. Kleiberによる臨床報告である.全く副作用がなく,経口投与でもフェノールフタレインの経静脈投与に匹敵する良好な造影が得られるとしている(図5).しかし投与前16時間は禁食,当日に下剤を使用し,15分前にピトレッシンを筋注するなど,前処置にはかなり手間がかかるようである.
【要旨・解説】1953年にLangebeckerが開発したBiligrafin [8]は,その後現在に至る経静脈性胆道造影剤の基本となった.本稿はドイツの放射線科医による約1,000例の使用経験を下にした総説論文である.
副作用の大きく使い難いフェノールフタレイン系造影剤にかわって,1940年にBiliselectanが開発され,1952年にはTelepaqueが開発されたが(図1),いずれも経口造影剤であったため消化管から血中に吸収される量が予測しがたく,また胆汁へ排泄も20~40%にとどまるなど,薬物動態が不安定であった.これに対して,ドイツのシェーリング社が開発した Biligrafin は,経静脈性造影剤で,投与量の少なくとも75~85%が胆汁に排泄され,またヨウ素原子を2個含むBiliselectanに対してこれを3個含むため(図1),造影能も優れる.
従前の経口造影剤で造影されなかった有石胆嚢の40%がBiligrafinでは造影され,胆石を証明できたという.また総胆管も造影される.供覧されている写真には,胆嚢内多発胆石の透亮像,遠位総胆管結石による陰影欠損が描出されており(図6),これは従来の胆嚢が見えれば正常,見えなければ異常といったレベルの診断に比べるとかなりの進歩である.
副作用については,事実上ほとんどなく,軽度の悪心,稀に嘔吐がみられるのみとしているが,その一方で血圧低下を来たすことがあり,ゆっくり静注することを奨めている.その後Biligrafinは長く使われ,1976年には同系統のBiliscopin(図1)が後継したが,現在主流の非イオン系造影剤にくらべると,やはり副作用はかなり多い.
関連文献
【要旨・解説】1924年に初の胆嚢造影に成功した外科医,Warren H. Cole自身が,1960年の北米放射線学会(RSNA)でCarman記念講演*で発明の経緯を語った講演記録である.詳細な舞台裏が述べられており興味深い読み物となっている.
*Carman Lecture. Mayo Clinicの放射線部門の創設に尽力し,X線透視,消化管X線診断に功績を残した Russel D. Carman (1875-1926)を記念して,1934年にRSNAが創設した記念講演.年1回の総会で行なわれる.ARRSのCaldwell Lectureと並んで,この演者に指名されることは大きな名誉とされる.
ここでは触れられていないが,当時1923年春,Coleはワシントン大学Graham教授の下の1年目外科レジデントで,7月から2年目はフルタイムで胆嚢造影の研究をするようにGrahamに命じられた[11].1910年にAbel & Rontree[6]が,下剤として研究していたフェノールフタレインの大部分が胆汁に排泄されることを発見したことから,Grahamはこれをハロゲン化してX線不透過性とすることにより胆嚢造影が可能と考え,その実験をColeに託した.早速7月から実験を開始したColeは,89種類のフェノールフタレイン化合物をイヌ,ウサギに投与し,最終的に四臭化フェノールフタレイン,四ヨウ化フェノールフタレインを選択した. 当初,200頭以上のイヌに造影剤を注射して一例も造影できなかったが,1923年11月,ついに1頭の造影に成功した.しかしその後,全く同じ条件で投与しても再現できず途方にくれたが,実験助手を問い詰めたところそのイヌだけ朝食を与え忘れていたことが判明し,造影に絶食が必要であることが分かった.1924年2月には,初の臨床例で造影に成功した(図7).
最大の問題は毒性であった.フェノールフタレイン化合物はいずれも嘔気,嘔吐,下痢などの副作用が多く,また血圧低下を来たす例もあった.できるだけゆっくりと注射し,症状が出現したら投与をいったん中止して数分間待つなどの工夫を加えてかなり低減したものの,約半数で何らかの副作用が認められた.静注前にアドレナリンを前投与する方法も一時期試みられた.経口法では,副作用は経静脈法より高かったものの軽度で,簡便であることからその後多くの臨床医は経口法を選択するようになった.
X線写真の解釈は,基本的に胆嚢が良く造影されれば胆嚢疾患はない,非造影の場合は何らかの疾患を疑うというもので,直接所見により胆嚢疾患を積極的に診断するというよりも,右季肋部痛がある場合に胆嚢がうつれば胆嚢疾患を否定できるという意味合いが強い.
フェノールフタレイン系製剤による胆嚢造影は,結局のその副作用を克服することができなかったが,それまでX線写真にうつらなかった胆嚢の状態を知ることができたことは画期的で,1940年にBiliselectanが登場するまで使用された.
直接胆道造影
胆道系に直接造影剤を注入する直接胆道造影には,経皮経肝胆管造影(PTC)と内視鏡的逆行性膵胆道造影(ERCP)があるが,その発展にはいずれも日本人研究者が大きな役割を果たしている.
経皮経肝胆管造影(PTC)
1915年,Carmanは胆嚢十二指腸瘻の症例で,消化管のバリウムにより胆道が偶然造影されたことを報告した[12].史上初の経皮的胆嚢造影を試みたのは,1921年,Burckhardt & Müllerで,銀を含む造影剤と空気を注入して胆嚢,胆石を描出した[13].この論文では,この方法により造影のみならず,胆汁検査,薬物注入が可能であると結んでおり,半世紀後のIVR手技を予見するものであったが,やはり難度,危険度の高い手技であり,おりしも1924年にGraham & Coleが経静脈性胆嚢造影を発表したことから[→原著論文],臨床検査として普及するには至らなかった.
当時の胆道手術は術後後遺症,再発が多く,その原因として遺残結石や胆管狭窄が考えられており,術中,あるいは術後のT-Tubeからの胆管造影は各施設から報告され有用性が確認されたが,当然のことながら術前に診断できることが望まれた.1934年,Kalkは腹腔鏡下に胆嚢に空気を注入して造影に成功し[14],その後は陽性造影剤を注入する方法も報告されている.1937年,Huardは腹腔鏡を使用せず,Lipiodolを使って初めて経皮経肝的造影に成功した[15].その後も経皮的あるいは経皮経肝的に胆嚢,肝内胆管を穿刺した報告が散見されるが,いずれも1例あるいは少数例の報告にとどまるものであった[16,17].
1953年にBiligrafinが登場し,経静脈性胆道造影の信頼性も向上したが,やはり排泄性胆嚢造影は高度な病変,特に黄疸例では描出能が低下して診断できないことから,直接胆道造影の研究が続けられた. この方法の普及を阻む原因は,やはり出血,胆汁瘻への懸念であった.当時は汎用の穿刺針が使用され,例えばCarterらはトロカール使って17Gの穿刺針を挿入しており,このような合併症はある程度不可避であった
しかし1950年代後半から,千葉大学の外科グループが,その後 "Chiba needle" と呼ばれるようになる細い二重穿刺針を発明し,安全確実な穿刺手技を編み出すとともに[18,19],さらにドレナージ法も開発した.1974年に奧田邦雄らがその成果を発表して以来[→原著論文],経皮経肝胆管造影は欧米各国でも急速に普及し,臨床診断法として確立して現在に至っている.
内視鏡的逆行性膵胆道造影(ERCP*)
1958年にHirschowitzが上部消化管ファイバースコープを発表したが,1960年代半ばまで,幽門を超えて十二指腸への挿入は難しく,ほとんどの報告で成功率は10%にも満たない状態であった[20].十二指腸の内視鏡からVater乳頭にカニューレを挿入して胆管,膵管を造影する方法は,1968年,McCuneらが報告が初報とされるが,造影成功率は25%にとどまり,掲載されている写真も不鮮明で実用的なものとは考えにくい[21].
1966年,日本の大井至(東京女子医科大学消化器病センター)らが,町田製作所と共同でアングル機構を備えた十二指腸ファイバースコープを開発して十二指腸への挿入成功率は飛躍的に向上し,Vater乳頭を直視できるようになった[22,23].大井はこれをさらに発展させ,1969年膵管・胆管造影に成功し,臨床応用への道を拓いた[→原著論文][24].これは初めて膵の放射線診断を可能とした点で画期的な研究であった.さらに1974年,川井啓市(京都府立医大)[25],相馬智(杏林大学)[26],ドイツのClassenら[27]がほぼ同時に内視鏡的乳頭切開術による総胆管結石治療を報告し,これ以後ERCPとその治療応用は,内視鏡技術の国産化とともに日本が世界をリードすることとなった.
* 日本では当初,EPCG (endoscopic pancreatocholangiography)と略されていたが,1975年の国際消化器内視鏡会議で,ERCP(endoscopic retrograde cholangiopancreatography)に統一された[28].
原著論文
【要旨】 胆道系腫瘍,結石症など外科的疾患234例,内科的疾患80例,計314例にPTCを施行した.長さ15cm,外径0.7mmの穿刺針(Chiba needle)を使用し,右側腹部から肝内胆管を穿刺した.過去に欧米で報告されていた従来法と異なる点は,(1)細い針を使用し,カテーテルを被せないこと,(2) 針先が胆管内にあることを確認する方法として,胆汁を吸引するのではなく,少量の造影剤を注入しながら行なうことである.これにより従来よりも安全,確実に造影が得られる(図8).造影成功率は,胆道系に拡張がある外科的疾患は83~100%,内科的疾患は67.5%であった.合併症は外科的疾患で約8%,内科的疾患では1例のみであった.従来適応とされてきた外科的疾患のみならず,内科的疾患にも幅広い適応がある.
【解説】 千葉大学の外科グループは,1950年代後半から,いわゆるChiba needleを開発して胆道系の経皮的穿刺による造影(PTC),ドレナージ(PTC-D)を国内で報告していたが[18,19],本稿はその成果をまとめて初めて英文で発表されたもので,PTCが世界的に普及するきっかけとなった論文である.
エコーガイドもなく盲目的に穿刺せざるを得なかった当時として,安全に行なうためには切れの良い細い穿刺針が必須であり,これを目的として開発されたのがChiba needleであった.胆道拡張のある外科的疾患に関して言えば,ほぼ100%の造影成功率が得られ,重篤な合併症もなく,臨床検査として既に実用の域に達しているといえる.掲載されている画像は,いずれも現在からみても明瞭で,十分な画質である.
論文のタイトルは,従来適応とされていた外科的疾患のみならず内科的疾患にも適応があるという主旨で,従来よりも安全確実な方法であるが故に胆道拡張のない内科的疾患にも施行できる,という意味合いが含まれている.内科的疾患として最も重要な適応とされているのが肝内胆汁うっ滞と閉塞性黄疸の鑑別である.具体的な疾患としては,肝炎,肝硬変,胆摘後症侯群などが挙げられており,いずれも現在ではPTCの適応外の病態であるが,CTやエコーで肝内胆管の状態を知ることができなかった当時,多少侵襲は大きくともPTCに大きな診断的意義が期待されたことが理解できる.
翌1975年に,アメリカのRedekerら[29]が "Chiba needle" という呼称を使用してこの論文を引用して良好な追試成績を報告し,さらに1976年には放射線科医のFerrucciが放射線科医として初めてこの方法を紹介して以来[30],PTCは世界的に急速に広まった.
【要旨】町田製作所製十二指腸ファイバースコープを使用し,400例以上の十二指腸検査を施行した.このスコープは側視鏡で,先端硬性部がわずか28.5mm,3方向のアングルを機構を備えている.1969年3月に初めてVater乳頭へのカニュレーション,造影剤注入に成功し,以後53例中41例(77%)でカニュレーションに成功,20例で膵管と胆管,19例で膵管,2例で胆管が造影された(図9).数例で一過性のアミラーゼ上昇が見られたが,大きな合併症はなかった.正常例では主膵管が全長造影され,カニュラをやや頭側にむけると胆管が造影される.膵頭部癌,膵体部癌,胆管癌,胆石症などを診断できた.
【解説】ERCPの初報である.著者の大井は前年1969年に日本の学会誌に発表しているが[24],本稿はこれを国際学会で発表した内容である.前年の論文は,6例中3例で膵管造影に成功したという内容であったが,本稿は症例数が増え,膵管のみならず胆管も造影されている.これを契機として,またその後オリンパス社も側視型の十二指腸ファイバースコープを発売したことから,ERCPは国内外で急速に普及し,PTCと並ぶ臨床検査としての地位を確立した[31,32].
MRCP
ERCPは,手技に熟練を必要とし,一定の割合で胆管炎,膵炎の合併症も発生した [32].そこに登場したのが,全く無侵襲にERCPに匹敵する胆管膵管像が得られるMR胆道膵管撮像法(MRCP)であった.1991年,ドイツのWallnerらが高速グラディエントエコー法MRIによる胆管膵管撮像を初めて報告したが[→原著論文] ,その後の技術的改良,実用化に際しては日本人研究者が大きな役割を果たした[33,34].MRI技術の発展と相俟って急速に画質の改良,撮像時間の短縮が進み,ERCPの診断的役割はMRCPが担うようになり,ERCPは専ら乳頭切開術,ドレナージ術など治療を目的として行なわれるようになった.
* 当初MR cholangiographyと呼ばれていたが,竹原らが初めてMRCPを使用し[34],以後定着した.
原著論文
【要旨】高度T2強調グラディエントエコー法であるCE-FAST法による胆道系の撮像を試みた.TR/TE 17/7msec,フリップ角70°,192×256マトリックス,スライス厚5mmの2D冠状断,矢状断像を,12秒息止め下にシーケンシャルに撮像し,これをMIP法で再構成して表示した.健常ボランティア5名,閉塞性黄疸症例13名を撮像し,健常者ではUS所見,患者ではCT, PTC, MRCP所見などと比較検討した.
健常者では5名中2名で撮像に成功したが,肝内胆管は描出できなかった.閉塞性黄疸患者では13名中11名で成功し,いずれも閉塞性高位が明らかとなり,一部の症例で閉塞原因を診断することができた(図10).
元画像は冠状断が適当で,矢状断は不要であった.不成功例の原因は,空間分解能の不足,心拍などの動き,胆汁のフローボイドなどが考えられる.MR胆道撮像法は,非侵襲的な胆道検査法として有用であるが,なお技術的改良が必要である.
【解説】MRCPの初報である.提示されている画像の画質はまだ不十分であるが,胆道,膵管を直接描出する画像診断法として,PTC,ERCPにかわる全く無侵襲な方法を提案した点で画期的な論文である.ここでは2Dグラディエントエコー法を使用しているが,この翌年1992年に日本の森本らが3D法を試み[33],さらに1994年には竹原らが高速スピンエコー法を使用した改良法を提案し[34],その後もMRCPの画質改良が進み,臨床検査として急速にその地位を確立した.
出典
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