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慶應義塾と放射線医学

放射線科学教室の現在(2)- 放射線診断科

放射線診断科 第4代教授 陣崎雅弘
(在任 2014-)

2014年4月,陣崎雅弘が教授に就任した.陣崎は放射線治療科の茂松直之とともに,初代教授藤浪が掲げた教室創設時の 綱領 を具現化すべく 放射線科学教室の指針 として,診療,研究,教育についての目標を掲げ,教室の目指す方向を明確にした.


放射線科学教室の指針
診療: 全科をサポートし,病院全体の質の向上に貢献する.
研究:人体の更なる可視化と,より精度の高い低侵襲治療を目指す
教育:広く医療・医学に興味を持ち,柔軟な対応力を持つ人材を育成する

陣崎教授就任後の最初の3年間で,教育拠点としての関連病院を重視して適正な人事を行うこと,学生や医局員の教育を見直すこと,医局の研究環境の構築など,教室の基盤づくり,インフラの整備に尽力し,その後は各分野の研究,臨床を本格的に展開するとともに,特に次世代を担う若手スタッフおよび学生の教育にも大きな努力を傾注している.研究教育の現状と将来構想については,慶應義塾広報誌「塾」(2020年秋 308号)にも紹介されている.

2015年9月に新病院棟(1号館)1期棟開院に伴い,造影X線,CT,MRI部門が1958年以来使用してきた中央棟から新病院棟に移動した.2016年,湯浅祐二は永寿総合病院理事長(病院長兼務),成松芳明は川崎市立川崎病院長に就任し,日本鋼管病院長(2012年~)の小川健二とともに,教室出身者3名が関連病院長の要職にある.また同年,今井裕が東海大学医学部長から副学長に昇任,2019年には新本弘が防衛医科大学校教授,岡田真広が日本大学医学部教授に就任した.

診療


IVR-CTを用いた血管内治療

全科をサポートし,病院全体の質の向上に貢献することを目標にしている.具体的には,精度の高い読影や手技ができるだけではなく,他科とのカンファレンスで主治医と議論をして患者さんの適切な治療方針の決定に貢献することを重視している.

また,画像検査法や手技は急速に進歩しており,最新の技術を適切に取り入れ,各科に最先端の診断学を常に提供している.放射線科としては全国でも有数の規模であり,超音波,CT,MRI,核医学,IVRの件数はいずれも日本でトップクラスである.

研究


開発中の立位CT

人体のさらなる可視化とより精度の高い低侵襲性治療を目指している.この目標達成の基盤づくりとして,競争的研究費の取得と特任研究員の雇用に力を入れ,医局員の努力により取得研究費額も論文数も大幅に増大している.放射線科は多様な領域をカバーする必要があり,特定の領域を重点的に強化するのではなく,全部門・領域を均等にサポートして人材育成や研究の活性化を図り,活性化した医局が次世代に受け継がれることを視野にいれている.

CT部門では,検査の低侵襲化と効率化を目指して,冠動脈造影や排泄性尿路造影などの造影X線検査,さらには心臓・肺の核医学検査を,3次元CTへ置換していく研究を長年行ってきた.これらの研究を通して執筆された論文は,国内外のガイドラインに引用されているものも多い.

その後,4次元画像での動態機能評価の研究にかかわるようになると,さらなる機能評価と単純X線検査の置換のために立位で撮影できるCTの必要性が強く感じられるようになった.そこで平成24年から立位CTの開発に企業と取り組み,整形外科,理工学部とも連携し,2017年5月に世界第1号機を導入し,多くの臨床科とともに臨床研究を開始している.


SPECTとCTの融合画像

MRI部門では,拡散強調画像のガンマ・フィッティング法による新しい解析を国際的に発信している.また,一度の撮像で多数のコントラストを得られる撮像法(MAGiC),心臓MRIにおける3D cineや心筋 T1 mapping,4D-flow法による血流イメージングの検討をいち早く行っている.


熱変性FDG標識赤血球による脾機能評価

核医学部門では,SPECT-CTの3次元での融合画像の臨床的有用性の研究を先導的に進めており,また精神科・神経内科と連携して認知症に対する国内未承認放射線医薬品(アミロイド/タウイメージング)を用いた臨床研究も開始した.同時に動物用PETを用いた基礎的研究も展開している.

IVR部門は,手術後患者の胆汁漏やリンパ漏への治療を世界に先駆けて展開しており,今後需要の増加が見込まれる画像下生検にも力を入れている.

さらに,これから読影支援としての重要性が増す人工知能を用いた診断補助の研究も日本医学放射線学会との連携のもと,着手している

放射線診断科があるので心強いと全診療科に思われるような科を作り,帰属感のある教室造りを心懸け,初期の3年間で教室の基盤づくり,インフラ整備に努めてきた.今後は個々の研究成果のさらなる向上を目指している.

教育


レジデントのための教育カンファレンスが毎週数多く行なわれている


放射線診断科の研究教育スタッフ(2020年現在).レジデントを含む全教室員は約40名を数える大所帯である (慶應義塾広報誌「塾」2020年秋 308号より)

広く医療・医学に興味を持ち,柔軟な対応力を持つ人材の育成を目標としている.具体的には,多くのことを学べる他科との合同カンファレンスに,若手医局員を積極的に参加させている.医局会カンファレンスでは,多様な放射線機器の進歩を把握できるように,企業による技術情報提供を積極的に取り入れている.

専門外の領域の最新知見も広く理解できるように,全国レベルのAdvanced Medical Imaging研究会を立ち上げ,医局員のみならず日本の放射線科医のレベルも向上させる機会を提供している.専修医には,発信力の強化を目的とした発表の場を多く設けるようにしている.

学生の臨床実習は,患者を持たない科であるため実習には不向きというハンディを背負っているが,双方向的な授業方式の採用,授業構成の見直し,明確な目標設定などを行った結果,学生からも非常に高い評価を得るようになっている.

教科書は,『腹部のCT』の第3版を大幅改訂して出版した.本書は歴代執筆者を教室員が担当しており,教室の人材の充実を反映している.また,若手医局員が学会のフィルムリーディングセッションにおいて数多く受賞していることは,卓越した読影能力が育っていることの証である.